シャールと自転車22

シャール「そもそも、なんであんな遅い出発だったんですか? 昨日は寒かったからと言ってましたけど、それだけじゃなさそうでしたよね」
たちき「実は、自転車に乗るのに何が必要か直前までいろいろ悩んでました」
シャール「具体的には?」
たちき「まずは寒さからの、服装です。車の移動と違い着替えを持ち歩いたり脱いだ服をぽんと助手席に置いたりできませんし」
シャール「かばんに防寒具を入れていくとかじゃだめなんですか」
たちき「昨日の朝は結構寒くて、防寒具どころかコート着ようか悩んだんです」
シャール「着ていけばいいじゃないですか」
たちき「ところが、僕の持っているコートはロングコートばかりで、あれで自転車、というかクロスバイクに乗るのはちょっと……」
シャール「春コートならまあまあ短めの持ってましたよね」
たちき「それを着ていって暑くなったら脱ぐか、漕いでればコートいらないかなって悩んで、結局コートなしでお出かけしました」
シャール「自転車にカゴが付いてるなら、脱いだコートを入れられますし。持っていってもよかったのでは」
たちき「日中17度だったからほんと微妙なとこです。休憩した場所が日陰で風があるとコートあったほうがよかったですけど、ずっと日なたで漕いでたから運転中は必要なくて。次回はまた考えます、防寒具」
シャール「あと、防寒具の他に必要なものってなんだったんですか」
たちき「僕の持ってるズボンは裾口の広いのばかりなんですけど、自転車乗る時は裾がひっかかったりして邪魔になることがあるから、裾を縛る何かがないかなって部屋の中を見回したら……。ありましたよ。名前は知らないですけど、黄色くて光を反射して、手首とかに巻くバンド」
シャール「なんとなくわかりました。伸ばすと板みたいになって手首とかにパシっと叩きつけると手首にクルッと巻き付くやつですね」
たちき「それです。よかった、伝わった。それを足首にっていうかズボンの足元に巻いていきました」
シャール「両足ともそれですか」
たちき「一本しか持ってなかったから、片足は別ので代用しました。さらに最後の準備は……」
シャール「まだあるんですか」
たちき「かばんを持ってくかどうかです」
シャール「むしろ持たないで出かける気だったんですか」
たちき「普段から、出かける時は財布と携帯電話と鍵だけしか持たないですからね。でも今回は他にも何か必要かなって。飲み物とか食べ物とか」
シャール「雨具とかは用意しなかったんですか」
たちき「快晴だったし、予報では翌日まで雨はないなって。でもコンビニがずっと見つからない場合に備えて、缶コーヒー1つとパン1個とペットボトル1本だけ袋に詰めていきました。飲み終わったらごみ箱捨ててくれば帰りは手ぶらだし」
シャール「つまり荷物は何も持ってかなかったんですね」
たちき「身軽でいたい年頃なんです」
シャール「意味がわかりません」