シャールとTRPG13

たちき「そんなわけで、NPCの女の子、リィナちゃんに懐かれてしまった主人公クレス君でしたが」
シャール「一回プレイしただけのTRPGのキャラの名前をよく覚えてるわね。自分のキャラならまだしもNPCまで」
たちき「それだけ悲しい事件だったから印象に残ってるんです(泣)」
シャール「わかったから、泣かないで話進めて!」
たちき「どこまで話しましたっけ……そう、依頼者を尾行していたところ、他にもいくつかの遺物やら秘宝やらを探しているようで、どうやらリィナはハズレだったからいらないみたいな感じで……」
シャール「可愛い女の子の姿をした秘宝なんて大当りだと思うけど」
たちき「その依頼者とは念話(?)みたいので会話してたんだけど、次の遺跡探索にはその子も連れていくようにと言われ、まあ宿屋に置いてくのも不安だから連れてくかと意見は一致、無事に次の古代遺物を発見……」
シャール「また女の子だったとか」
たちき「いえ、今度は剣でした。これこそが依頼者が探していたもののようですが、どうやらリィナを連れていかないと反応しないようです。連動型の秘宝という感じでしょうか」
シャール「依頼者は当然、それを渡せって言ってくるわけね」
たちき「まあ依頼ですからそうしようと思ったんですけど、リィナはとても剣を恐れてる感じで、喋れないから僕たちパーティメンバーを引っ張ってでも剣から遠ざけたいみたいな仕草で」
シャール「いわくつきの剣なのかしら」
たちき「そこで依頼者が、よく発見してくれた、その剣を渡してもらおう、みたいなセリフと供に現れて……」
シャール「お約束の登場ね」
たちき「実は魔族という黒幕の雰囲気もばりばりですよ。剣の説明もしてくれまして。世界を改変できるくらいの力を持つ剣らしいです」
シャール「お約束の解説ね」
たちき「悪用させるわけにはいかないと、パーティメンバー四人で立ち向かい、かろうじて撃破。ちなみに主人公(仮)の僕はちゃっかり剣の力も借りて戦ってました」
シャール「ここまではハッピーエンドに向かってるわよね?」
たちき「そして戦いのあと、リィナを安心させようと近付こうとしたら、近づけない。どうやら剣と反発しあってる様子」
シャール「剣を手放せばいいでしょ」
たちき「そうですね。連動型秘宝だけど、一度に手に入れられるのはどうやらどちらか一つのようで、リィナを選ぶか伝説の剣を選ぶか……」
シャール「そんなの決まってるじゃない」
たちき「もちろん。でも剣をぽいっと投げ捨てるわけにもいかないし、というか手から離れないからあれこれ試したり念じてみたりしてたら、いつの間にか剣の所持者として認定されてしまい……」
シャール「はあ?」
たちき「リィナは寂しげな笑みを浮かべながらふっと消えて……」
シャール「ちょ、ちょ、ちょーっと待ちなさいよ! な、なによその終わり方!」
たちき「クレス君は伝説の剣の使い手として名を残すことになるのであったbyゲームマスター、という締めのひとことで物語は終わり……」
シャール「ありえない、ありえないでしょ。そんなのってないでしょ! どうしてそうなるのよ!」
たちき「そんなの僕が知りたいよ! そんなつもりじゃなかったのに! もう少しうまくロールプレイして、ちゃんとリィナの名前呼んで側にいてあげればそんな悲しい結末にならなかったのに! 今の僕ならきっともっとうまくやれたと思うけど、あの頃の僕には多分まだ照れが残っていたから、だから……」
シャール「たちき……」
たちき「それを最後に、僕はTRPGを引退したんだ……」