シャールと始まらない物語・エピソード1

※この物語はフィクションです。また、続きはありませんのであらかじめご了承ください。


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(ここが部活の大会会場か〜)
目の前の体育館を見上げ、周りの建物もぐるっと見渡してみる。なんとなく知ってるような知らないような、不思議な感覚。
(ていうか来たことあるし。スポーツセンターってここだったんだ)
大会会場の名前は知ってても、どこにあるのか知らなかったから来てみてびっくり。小学校の時にたまに来ていたとこだった。
今日は四月末の土曜日。
中学に入って部活に入ってまだ半月も経ってないけど、今日は春の大会があるらしい。先輩に連れてこられるまま部活のみんなでぞろぞろと自転車でここまで来たけど、市内って言っても結構遠かった気がする。まあ自転車乗るの好きだからいいんだけどね。
で、到着してみたらなんとなく知ってるとこで。小学生の時にたまに来てたとこだったわけだけど、その頃は夜に来てたから昼間ここに来るのは久しぶりかも。なんだか懐かしいような……
(あれ? みんなは? 先輩達は?)
やばい、自転車停めてのんびり駐輪場から歩いてたら、いつの間にか置いてかれた? 知ってる体操服姿が誰もいない。
まあ、他の学校の生徒もいるし向かう方向みんな同じだし、なんとかなるか。ひとりだけ違う体操服なのはちょっと浮いてる気がして、微妙だけど。
あ、でもあの女の子もひとりだけ違う体操服だ。僕みたいにはぐれたのかな。でも歩いてる流れに逆流してくるってことは、忘れものでもして戻るとことか。焦った顔してるみたいな……
(って、え、嘘! あの子は)
目が合って、同じタイミングで向こうも気付いたみたい。びっくりした顔してる。ていうか多分僕も同じ顔してると思う。
だってその女の子は、小学校5年の三学期末に転校していった女の子だったから。転校先が市内だったのは覚えてたけど、まさかここで会うなんて。
約一年経ってるけど、身長も小さいままで生意気そうな可愛い顔も正直全然変わってなくて、その意味でもびっくりした。
ただ、僕は部活のみんなを探して少しだけ気が急いていたのと、その子はほんとに何かを焦っていたのか、その時はお互い足を止めずにすれ違った。歩きながらも気になって振り返ってみると、向こうも遠ざかりながらこっちを見ていた。
同じ大会会場にいるってことは同じ部活なわけだし、そのうちまた会えたら何か話そうかな、なんて考えてたけど、結局そのあと三年間、大会が約10回もあったのにその子と話すことはなかった。機会がないわけじゃなかったけど、すれ違ったり目が合っても、一言も話すこともなくその子との関係はなんにもなかった。
だってその子は、二年以降は毎回優勝するようなすごい子になっていて、僕はその他大勢の一部員のままで。レベルが違いすぎるのもあったし、きっかけもなかったし。
思えば最初のすれ違いの時に声をかけられなかったのが失敗だったのかなって思う。あの時少し余裕があれば。ついでに勇気があれば。何かが変わっていたのかもしれない。
その子とは中三の夏の大会を最後に会っていない。